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覚悟のススメ(山口 貴由) 全11巻 秋田書店
 皆様初めまして。主な睡眠場所は電車の中という眠るダメ人間、真縞 静時と申します。
 この度、縁あってこの素晴しきよみまんメンバーの末席に加えて頂く運びとなりました。まだまだ他の先輩方の足元にも及びませんが、今後とも宜しくお願いします。
 
 さて、ご挨拶も済んだところで、記念すべき第一発目にご紹介する漫画は、山口貴由の「覚悟のススメ」です。
 もうすでにあらゆる場所で評価を受け尽した作品ですが、あえてこの作品を紹介しようと思い立ったのは、何かひとつ王道を紹介したいなという思いと、個人的趣味からです。
「あ?『覚悟』が王道?何ゆってんのオメー」などという方もいらっしゃるかもしれませんが、この作品は正しく少年漫画の王道なのです。
 確かにこの作品は色々な意味で読み手を選びます。作者、山口貴由の独特の絵柄や残酷描写、ギャグか本気か判らない台詞回し、更にはきもち右寄りな思想をひしひしと感じ取れる為、キワモノ・異端の烙印を安易に押されがちです。しかし、常に前向きに戦いを続ける覚悟、そしてそんな覚悟を応援し支える級友達。中でもヒロイン・堀江罪子との不器用で淡い恋など、王道の少年漫画として必要な材料は全て揃っています。
舞台は近未来、大震災後の新東京。未だ復旧の目処も立たず、人々は汚染された大気や怪物化、凶暴化した生物達から自分の身を守らなければならない、そんな荒廃した時代です。しかし、人類は希望を失うことなく、復興への道を辿ろうとしています。学生達は自警団を組織し、自分達の学び舎を守る為に戦い、くじけない歌を歌い続けます。
 ある日突然現れた戦術鬼と呼ばれる怪物、それを満身創痍で撃退する主人公、葉隠覚悟。覚悟は零式防衛術という殺人技を駆使し、さらに第二次大戦時に犠牲となった三千の英霊の憑依する強化外骨格と呼ばれる鎧・零を着装することによって、戦術鬼共を葬り去ってゆきます。覚悟は己がどれほど傷つこうと厭わず戦い続けます。何故なら彼の存在理由は力を持たぬ人々を守る事だから。軍人の家に生まれ育ち、幼い頃から徹底した教育を施されてきた覚悟は、人を守る為に自分が傷つく事など問題無いと考えているのです。
 覚悟のこの思想はこの物語を貫くメインテーマです。この漫画の随所に登場する名台詞「覚悟完了」にはたとえ己がどうなろうと守り抜き、戦い抜くという強い意志が秘められています。けして死ぬ事を恐れない訳では無い、しかし死の恐怖すら凌駕する魂、それを「覚悟」という言葉で表しているのです。
 覚悟の戦いが続いていく中で、この作品のもう一人の主人公とも言える覚悟の兄、散(はらら)にもスポットが当たります。自らを「現人鬼」と称し、次々と戦術鬼を生み出す散は一見悪役以外の何者でもありませんが、物語が進行していく中で散は物言わぬこの星の総ての生物の救(星)主として人類に対し宣戦布告したのだということが明らかになります。地球を汚染し尽くした人類を絶滅させもう一度青い地球を取り戻すというのが散の目的であり、願いでもあります。この作品のテーマの一つは人類の救世主、覚悟とそれ以外の総ての生物(地球含む)の救星主、散による守護者としての戦い、つまり人類V.S.地球という究極の対決の縮図がここに展開されるわけです。
 どちらが正義でどちらが悪なのか、決して答えの出ない問いを背負って戦い続ける兄弟二人。この時点ですでに「正義は一つでは無い」などという回答も出ているのですが、二人はお互いの背負うものを放り捨てる事無く死闘を繰り広げます。
 この愚直なまでに己の意思を貫き通すという理念、これは『覚悟のススメ』全登場人物について言える事であり、一見グチャグチャに見えるこの作品を決して瓦解させる事無く繋ぎ止めている見えない鎖となっているのです。
 この作品は王道でありながら異端であり非常に90年代的な手法で描かれています。過去の作品へのオマージュを散りばめ、ちょっとした漫画読みの方ならすぐに判るような元ネタ、そして当時やたらと騒がれていたエコロジー問題などにも抵触しています。つまり、70年代の熱血路線漫画を現代風に解釈した、と捉えることも可能なわけです。
 無論80年代にもそのような漫画が無かったわけではありませんし、『覚悟』と同様のテーマを扱った作品はそれこそメディアを問わず山のようにあるでしょう。
 しかし、凡百の作品と『覚悟』が一線を画す最大の特徴として、やりすぎとも思える突き抜けた表現を無造作に放置しておきながらも、破綻する事無く最後まで突き進んで行ける物語の強度、つまりこの作品の完成度の高さを、誇張した表現を頻出させることにより逆に提示している所にあります。ある意味懐の深さを感じさせる仕組みです。
 『覚悟』が話題になってから、数々のパロディや、まあ言ってしまえばパクリのような漫画を様々な場所で見かけるようになりました。しかしどれもこれも『覚悟』の上辺の新奇さだけをなぞったり、台詞回しだけを無闇と真似たものばかりで、真なる意味で『覚悟』を超えた作品は今のところ皆無であるというのが現状です。しかし、『覚悟』は少年誌表現の限界まで挑戦した作品であり、それを超えるものとなると、これはもう疑い無く傑作と呼んでよい作品であると思われるので、それも無理からぬ話なのかもしれませんが。
 とにかく、『覚悟』は同時代の『新世紀エヴァンゲリオン』とスタイルとして共通する点を持ちながらも確実に異なる作品としてなお90年代を代表する作品であり、エンディングにはその差が如実に現れています。
 散との最終決戦を終えた覚悟と罪子を出迎える全校生徒たち、覚悟は照れ隠しか決意表明か、瞬時に零を身に纏い、罪子を抱えて最後の名台詞を力強く唱えます。
 「君がいる限り、戦い続ける!!」
 今現在、ここまで前向きで肯定的な台詞を言い切れる主人公っているのでしょうか。
 既に21世紀に突入して2年半、『覚悟』の登場が94年だったことを考えると、そろそろ新しいヒーローが登場してもおかしくない筈なのですが、果たしてどうでしょう。既に僕達の前に姿を現しているのかも知れませんし、機が熟すべき時を待っているのかも知れませんね。

(真縞)
| 真縞 | 13:27 | comments(0) | trackbacks(1) |
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